人気大学准教授による、子どもの心と体の成長を促す運動遊びコラム

2014.11.25

みなさん,はじめまして!
大阪府北部の箕面市の大阪青山大学健康科学部子ども教育学科で、体育教員をしています村田トオルといいます。

これから人気大学准教授による、子どもの心と体の成長を促す運動遊びコラム」を担当しますのでよろしくお願いします。

 

◆自称・体操のお兄さんです!

こう自己紹介すると,なんだか堅そうで理屈ばっかりのコラム書きそうやんって思ってませんか?実は現役体操のお兄さん(もう誰も呼んでくれませんので,自称です・・笑)でもあるんですよ。 また,21歳の長男はアニメ声優を目指してフリーター。高2の次男は陸上短距離で東京オリンピックを目指すという「我が道を行く」男の子ふたりのパパでもあります。

 

教員以外の活動は,地域の子どもたちと運動遊びしたり,親子体操を通じてイクメン講座もしたり。最近では子育てサポートセンターや,児童館からの依頼で子育て講演や幼稚園,保育園の先生の研修会も増えてきました。「体育の先生がなんで子育て講演してるの?」また新たな疑問が沸いたことでしょう。

 

◆20年間、子ども体操教室の指導に携わって気づいたこと

僕は大阪体育大学卒業というバリバリの体育会系で,卒業後は兵庫県川西市のスポーツ財団に就職し,20年間子どもの体操教室を中心にスポーツ・運動指導に携わっていました。まさに「子どもはスポーツで『鍛える!』」だったのです。さらに「体力がないのはその子どものせい」とも思っていました。

 

でも20年近く経ち,こうした考えの中で,だんだんと気になっていったのが教室開始前のある親子の会話でした。「お母さん,行くのいやや~帰りたい!」という子どもの悲痛なまでの訴え。お母さんは「ここまで来て,何言ってるの!終わったら,帰りにコンビニで好きなカード買ってあげるから,行っておいで!」と無理矢理に参加させようとしていました。

 

この会話を耳にするたびに「なんか違うなー」と自分の中では感じていました。もちろん教室中のその子どもの様子はいやいや感,させられ感でいっぱいでした。

 

ところが,時間が少しだけ余り,「じゃあ,残り5分は自由ねー」と言うと,あれだけマイナスの態度を示していた子が,いきいきと走り回り,マットを転がっていました。それもはじけるような輝く笑顔で。同じようなことは,ほかの子どもでもありました。 指導者としては「ガーン」って感じです。一生懸命考えたメニューはいやいやで,自由時間にのびのび。回数を重ねるごとに「なんとかしなければ」という焦り。

 

◆私が仕事を辞めて、大学院生になった理由

結局,この疑問は解決できませんでした。しかし,小さな疑問であったはずの出来事が,だんだんと大きくなりました。それは「子どもの体力二極化現象」。 つまり,<運動する子としない子に極端に分かれている>ということが社会問題となって新聞の見出しになりました。読んだ瞬間「自分がしてることやん!」と感じました。子どものためによかれと思って指導していても,苦痛の時間と思う子どももいたのですから。

 

それから「二極化の原因を突き止めずに人生を終えることはできない」と一念発起,20年間勤めた会社を辞め,42歳で兵庫教育大学大学院に進みました。長男が中2,次男が小3になるころです。ここまですでにチャレンジャーな人生ですが,僕は少しずるいことをしています。実は退職するかしないかの最終判断を奥さんに委ねたのです。

 

ある日「このまま会社にいててもリストラされるのを待つだけ。それならば,自分から退職し,いったん生活レベルが下がるけど,大学院へ進むか迷ってる」と<相談>しました。奥さんはしばらく考えた後「大学院へ行けばいいやん」と答えてくれました。相談した体裁を取っていますが,もともと僕が出した答えを承認させたことになったのです。

 

会社へ退職の意向を伝えましたが,1度目は引き留められました。2度目に伝えたときは「休職扱いで進学すれば」と提案していただきました。非常にありがたかったのですが,「却って中途半端になり,会社にご迷惑をおかけすることになります」とお断りをし,退職を認めていただきました。 こうして一家の大黒柱が大学院生という生活がスタートしました。

 

◆子どもにとって大切なのは「楽しいか・楽しくないか」

順風満帆に行くはずの研究生活は2年目で大きな壁にぶち当たりました。それは先に述べた「子どもはスポーツで鍛える」という凝り固まった極めて大人目線の考え方が壁を作っていたのです。修士論文を書き始めたころ,とうとう指導教官からは「あんたはどうして子どもの気持ちや心の部分をくみ取らないのか!」「体力が上がれば,なんとかなるやろと思ってるからや!」と1対1のゼミで真っ向から叱責されました。

 

その時にようやく目が覚めたのです。「心」というキーワードが実は重要だと。子どもにとっての心とは「楽しい」なんです。「楽しいか楽しくないか」極端かもしれませんが,どちらかなんです。

 

大人は「ダイエット」「メタボ解消」あるいは「老後のために」というそれぞれの目的を持って運動なりスポーツをします。でも繰り返しますが,子どもにとっては「楽しいか,楽しくないか」なのです。運動・スポーツをした結果なんて求めてはいないのです。それがあの体操教室のシーンとリンクした瞬間です。

 

それからというものの,図書館では「幼児教育」の文献を片っ端から読みました。するといたるところに【遊び】という言葉が当たり前に出てきます。「そうか,教室であったとしても,楽しい遊びになるようにすればいいんだ」とおおまかな方向性が見えてきました。 でも次なる壁が立ちはだかりました。

 

◆大きな壁を越えてたどりついたのは、子育てに通じる結論

体力は体力テストをすれば数字として明らかに結果がわかります。でも楽しいという心の数値をどうすれば評価できるのか・・・これは本当に大きな壁でした。苦悩の日々でした。学生ですので,一日中考えることができます。それでもなかなか答えが見つかりませんでした。

 

指導教官に「先生,もう諦めます。体力テストだけで論文書きます」と弱音を吐くと「何言うてる!あんたがここで諦めたら,日本の子どもの将来はどうなるんや!」とまた叱責されてしまいました。

 

次に「あんたは,腕の動きとか膝の上げ方しか見てないんちゃうか?子どもの顔や仕草を注意して見たことあるか?」。久しぶりに「ガーン」です(笑)。これまで「そんなことどうでもいい」とおろそかにしていた点を真っ向から指摘されたのです。

 

このアドバイスを活かし,次の教室では視点を変え,こちらがよかれと思って準備したメニューであっても「無表情」「始めるのを躊躇する」「フリータイムで並ばない」という明らかなマイナスサインが出たものを外し,「準備したとたんに並ぶ」「歓声があがる」「我先に並ぶ」という楽しさを示すサインがあったメニューばかりにしました。

 

すると,だんだん子どもが明らかに変わっていくのです。生き生きと輝く笑顔がところどころで見られます。次に言葉がけにも細心の注意を払いました。「~しなさい」「どうして言ったとおりにできないの」「それは違うからやめなさい」。つまり,否定をする言葉,強制する言葉,焦らすような言葉は一切使わないようにしたのです。

 

こうして苦労に苦労を重ねた2年間研究の結論は「スポーツ指導では子どもを比べない,否定形,命令形の言葉づかいをしない」「のびのびできる遊びが大切」でした。もうお分かりですよね。そうです,子育てに通じる結論に達したのです。

 

◆またまた立ちはだかる大きな壁、さあどうする?

大学院修了後,この理論を広めるのに必死でした。でも世間の風は冷たかったです。なにしろ,「体力向上に遊び」「スポーツ指導は子育てに通じる」なんて考え方は,これまでと180度違うのですから。「村田さんの理論を聞きたい!」という依頼はほとんどゼロでした。

 

この頃僕はフリーター,でも一家の大黒柱でもあります。特に贅沢をしなくても毎月40万円はかかります。貯蓄も目に見えて減ってきました・・・

 

この後、一家の生活はどうなっていったのか?続きは次回をお楽しみに!

 

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村田トオル
大阪青山大学健康科学部子ども教育学科 准教授
・NPO法人日本健康運動指導士会兵庫県支部長
・第26期西宮市スポーツ推進審議委員
・日本体育協会スポーツ医科学専門委員会メンバー
・同志社大学健康体力科学センター嘱託研究員

 

 

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