日本と香港、子育てしやすいのは?|編集者ママのインターナショナル子育てin香港vol.2

2015.11.17

◇香港での生活スタート
いざ香港に渡ったものの、到着して数日後に夫が出張に行ってしまい、母子3人で生活しなければならなくなりました。
その後も、帰ってきたと思ったらまた出張……。

言葉もままならず、家の周辺でさえ迷いそうな状況なのに、子ども2人にごはんを食べさせ、遊ばせ、守らなければならない。しかも、船便の荷物が届くまでの約1カ月間は、まともな調理器具も、食器も、おもちゃもない!わたしにとって、今までにない試練でした。

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2月の香港は湿度が異常に高く、天気がすぐれない日が続きます。 当時のわたしの心もこの風景のように霞んでいました(笑)

家では間が持たないので外に出るしかないのですが、わたしは筋金入りの方向音痴。自分ひとりならまだしも、子どもを2人連れて路頭に迷ってしまったら……。しかも夫の出張中に……!そう考えると恐怖でしかなく、しばらくは家近辺をウロチョロするしかありませんでした。

そして、少しずつ、本当に少しずつ行動範囲を広げていきました。自分の足で歩くことで、「点」を「面」にしていく。把握できる範囲が広がることで、緊張がほぐれ、街に自分がなじんでいくーー。

もともと旅行が好きで、今まで多くの街を歩いてきましたが、そのときの感覚を思い出しました。

◇不便でも人との触れ合いがある
街を歩くことに少し慣れ、地下鉄にも乗れるようになったころのことです。日本と香港の大きな違いに気づきました。それは「子どもや子連れの人に対する接し方」です。

香港は日本よりも道がガタガタで段差も多く、エレベーターがないところも多いので、ベビーカーで移動するのはけっこう大変です。最寄りの地下鉄の駅は、地上と改札を行き来するエレベーターがありません。

そのためエスカレーターか階段を使うしかないのですが、頼みのエスカレーターが修理中で2カ月近く使えないことがありました(日本ではエスカレーターの修理なんて1日で終わる……いや、終わらせる気もしますが)。

また、歩道橋の一方のエレベーターは普通に使えても、道の向こう側のもう一方のエレベーターは修理中で使えない、なんてこともありました。

息子はベビーカーに乗ったまま寝てしまうことが多いので、そんなときはベビーカーごとヨイショと持ち上げ、階段を上ったり下りたりしなければならない事態になります。

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こちらでは移動中にベビーカーでお昼寝することが多いです。保育園のお昼寝タイムがありがたかったなぁと感じる今日このごろ。

そんなとき、どこからともなくスッと助けの手が差し伸べられるのです。年配の女性だったり、若いお姉さんだったり、はたまたビジネスマン風の男性や年配の男性だったり。

老若男女問わず、いろんな人が率先して手を貸してくれます。これには本当にびっくりしました。

道の整備や施設の管理の点では、日本の方が圧倒的に優れていますし、不備への対応も早く、スマートかもしれません。でも、不便だからこそ人との触れ合いが生まれる面もあるのかもしれない、便利すぎる世の中も少し寂しいのかな、などと考えたりしました。

でも、もし日本で同じような状況で、階段しか使えなかったとしたら……。ふと頭に浮かんだのは、多くの人が行き交う中、ひとりでベビーカーを持ち上げ、必死に階段を上っている自分の姿でした。

◇子どもを大切に扱ってもらえる
また、地下鉄に乗っているとき、子連れだと頻繁に席を譲ってもらえます。意外にも男性が率先して譲ってくれるので、とても驚きました。

日本では、ベビーカーに子どもを乗せたまま電車に乗ったり、子どもが騒いだりすると非常に肩身の狭い思いをしますが、香港でその種の居心地の悪さを感じたことは一度もありません。

揺れによろめいた娘に「こっちならつかまるところがあるよ」と手招きしてくれたり、子どもたちにふと笑いかけてくれたりと、あたたかく接してもらえます。

飲食店やスーパーの店員さんも、子どもたちにやさしく接してくれます。

先日、レストランで息子が機嫌を損ねてワァワァと長い時間泣いていたのですが、そんな息子に店員さんがスペシャルドリンクをサービスしてくれました。息子はすぐに泣き止み、それを見た店員さんもにっこり。

スーパーの店員さんも進んで子どもたちに明るく話しかけてくれたり、「Bye!」と手を振ってくれたり。ささいなことなのですが、自分の子どもを大切に扱ってもらえると、親としてうれしいものですよね。

もちろん、日本でも子どもや子連れの人にやさしく接してくれる人はいますし、わたし自身も見ず知らずの人がかけてくれた言葉に救われた経験があります。ただ、わたしの場合、その多くが孫のいるような年配の女性でした。

香港では、性別や世代にかかわらず、助けてくれたり、声をかけたりしてくれるので、新鮮に感じたのだと思います。

◇子育てしやすい世の中って?
今の日本は、子育て用品も優秀なものが多く、オムツやミルク、食材などあらゆるものがネットで気軽に買えます。

駅もエレベーターがおおむね設置されていますし、子乗せ自転車で病院やスーパー、少し離れた公園にも気軽に行けるなど、“ハード面”はとても便利で子育てしやすいといえると思います。

こちらに来て、今まで本当に恵まれていたんだなぁと実感しています。

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日本製の子育て用品や食材が購入できるAEON。香港には自転車を移動手段として利用する習慣がないので、行きは徒歩、帰りは荷物が重いのでバスで帰ることが多いです。

でも、子どもや子育て中の家族に対する目、接し方などの“ソフト面”はどうでしょうか。

保育園の建設に地域から反対の声が上がったり、公共の場で赤ちゃんや小さな子どもが泣いていると冷ややかな目で見られたり、というニュースもよく見聞きします。

その要因として、少子化で子どもと触れ合う機会が減ったから、小さな子どもがいる環境に慣れていないから、というのも考えられます。

そもそも子どもに限らず、他人に対して厳しいところがあるのかもしれませんし、手を貸したり声をかけたりするのは余計なお世話なのではないかと考え、パッと行動に移せない、というのもあるかもしれません。

“ハード面”はお金をかけ、時間をかければ、ある程度改善することができます。その一方、課題でもある“ソフト面”は、お金や時間をかけても、比例して向上していくものではありません。

「どうしたら、香港の人たちのような寛容さを持てるのだろう?」 「日本との違いは一体どこにあるのだろう?」

こちらでの生活は、いろいろなことを考える新たな視点をもたらしてくれます。それだけでも、思い切って海外に出た甲斐があるのかもしれないな、と最近は思っています。

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◆蓮見紗穂(はすみ さほ)
埼玉県出身。
2010年生まれの娘と2012年生まれの息子の母。東京の出版社で編集者として勤務後、夫の転職に伴い、2015年2月から香港在住。現在は、2児のハハ兼フリーランスの編集者として地道に活動中。
https://www.facebook.com/saho.naito.94

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